Mari Matsuno の日記

神戸とパリ在住の画家、松野真理のブログです。

思い出

marimatsuno2016-03-31

大昔、20代のころ結婚しようとした貧乏絵描きがいた。
彼は中卒で集団就職して神戸に出てきて働きながら絵を描いていた。
集団就職先をリストラされて土方をしていた。私は大学を二つ出ていたから足してちょうどいいなんて言っていた。私が彼に夢中で(私はいつも夢中になる)追っかけまわして向こうは生活のため?折れたのかも。でもやっぱり逃げちゃって私は、ちょうど時期的にも卒業し大学院に当たる専攻科を休学してフランスへ留学した。しばらく空白があって、10年くらいして彼が関東でお坊さんになったと聞いた。
それから年月が経って彼は茨城県でお寺の住職になった。
私は、日光観光やジュリーのLIVEにかけて彼のお寺にたまに行った。毎年大きな梨を送ってくれる。
そんな彼から宅急便が届いた。開けてみると彼のデッサンが、ファイルにされているスケッチブックだった。

印刷ならわかるけど直筆で20枚入っていた。すごくびっくりした。彼は死んじゃうのかなと思った。
私はデッサンは人にあげないし1985年にパリで描いたものを売ったことも後悔してる。私にとってデッサンは、すべての根幹だから、作品はそれから派生させてできる。

きのうは、ジュリーだったから、なんか重いものを感じてジュリーが終わるまで先延ばしした。劇は別世界。楽しませてくれるけど現実に戻らなくてはいけない。

10時に帰ってきて電話した。私は「がんでも宣告されたの?」何とか元気だという。彼の私に対してこんな重いもの送ってきた気持ちは、少ししゃべってもわからなかった。人の気持ちはわからない。

私は、これまた大昔の男に若いとき、「まりちゃんと一緒にいるととっても楽しい。でもしんどい時は、違う女性に慰めてもらう」でもずいぶん経ってから彼も結婚してから、がんになって時々電話がかかってきた。「まりちゃんの能天気な声を聞くと元気が出る」と。何回もかかってきていた。3年か4年たったかな。会えなくなって。
年賀状に「今年も生き延びてください」って書いたけどしばらくして奥様から「お世話になりました」と他界のお知らせが来た。